「オリオン座の1等星ベテルギウスが近い将来,超新星爆発をする。」というニュースが昨年流れた。地球から比較的近くにあるこの星がもし爆発すれば,満月の100倍以上の明るさで輝き,昼間でも見える史上最大の天体ショーとなる。ベテルギウスは赤色超巨星で直径は太陽の1000倍,星自身が膨張と収縮を繰り返す脈動変光星で,すでに老年期をむかえており,最近の星表面の観測から近い将来爆発する可能性が大きいという。
オリオン座といえば星々がよくまとまった均斉のとれた美しい星座で,冬の夜空を見上げれば誰もがすぐに見つけることができる。星々をたどると棍棒を振り上げて右隣から向かってくる牡牛座に対抗している勇者の姿が連想される。地球から約640光年離れた赤いベテルギウスと約800光年離れた青白いリゲルが,星座の左上と右下に対照的に輝き,二つの星を日本ではその星の色から,ベテルギウスを赤旗の「平家星」,リゲルを白旗の「源氏星」などと呼んでいたようだ。星座中央横に並んだオリオンのベルトにあたる三つ星のすぐ下には,縦に並んだ小三つ星,その中央には1600光年離れて鳥が翼をひろげた形をしたオリオン大星雲M42,また左上にはあのウルトラマンの故郷とされる散光星雲M78がある。
星座をつくっている星一つ一つは,地球からの距離,大きさ,表面温度,年齢など,すべて異なっているが,たまたまそれらの星が地球から同じ方向に見え,二次元的によくまとまって一つのオリオンの勇姿を見せてくれる。人も一人ひとりがそれぞれ異なった個性をもっている。その個性をもちつつもグループとしてまとまることで,さらに異なった特徴や個性がより大きく発揮できるのではないかと思う。
星座について学習したのは小学生の頃だったろうか。冬の凍てつく夜,珠算塾からの帰り道,見上げるとまさに天空に堂々と横たわるオリオン座の姿を見つけたのを今でもよく覚えている。それから数十年,約束でもしたように毎年冬になると,東の空から上ってくるその勇姿を見ることができる。夜空の星は常に変わらないものだと思っていたが星にも寿命があり,長い時間のスパンで見れば人と同じように星にも一生があることに気づかされる。
十数年前になるだろうか,天体観測に凝った時期があった。当時,購入した口径8㎝の屈折望遠鏡で最初に見たのは月,表面のクレーターや凹凸の地形の様子を鮮明に見ることができた。次に木星,表面の縞模様と4個のガリレオ衛星,環をもっている土星,満ち欠けする金星など,肉眼ではどの惑星もただの明るい一つの光点としか見えないが,望遠鏡で観測するとそれぞれが大きな個性をもっている。よく雑誌などで惑星の写真は見るが,実際に観測すると,確かにその星があるという実感や臨場感をもつことができたし,その姿はふしぎで神秘的でもありもっとその星について知りたくなった。
望遠鏡は口径が大きいほど集光力が大きく,より分解能が高くなる。そこで8㎝では飽き足らず,20㎝のシュミット・カセグレン望遠鏡を購入した。(我が家の財務大臣にはかなり無理を言ったのだが)大口径の望遠鏡で惑星の姿もより鮮明に観測できたし,さらによく観測できたのは二重星だ。肉眼では一つにしか見えない星が,実は望遠鏡では二つの星が接近して並んでいるのが観測できる。はくちょう座の口ばし付近にある星アルビレオは宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」にもでてくるが,金色とエメラルド色の星が寄り添い天空の宝石といわれる美しい二重星である。他にも多くの二重星が存在するが,それらを一つひとつ見つけていくのも楽しいものだ。また,望遠鏡の視野の中ですべての星が時間とともに少しずつ西へ移動していくことから,確かに地球という自転している一つの惑星の上に自分がいるんだということも実感できる。当時いくつかの彗星も観測できた。その破片が次々と木星に衝突したことで話題となったシューメイカー・レビィ彗星,地球に接近した百武彗星やヘール・ボップ彗星など肉眼でも観測できた。
天体観測によって,宇宙の神秘を感じることができるし,その中には驚きや発見もあり,なぜか癒やされる。喧騒の中に生きている人間がちっぽけな存在に思えてくる。星に比べれば人の一生などほんの一瞬かもしれない。しかし,その人生という限られた時間の中で夢中になれることを見つけ,生き甲斐をもって懸命に精いっぱい生きていく,そしてそのことで社会に貢献できるとすれば,充実した人生を生きたといえるのではないかと思ったりもする。
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