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 3.近代化の広がりと帝国主義
 
◆『私は黒人奴隷だった』(岩波ジュニア新書 本田創造 著) 
◆『フランス革命  歴史における劇薬』(遅塚忠躬 著 岩波ジュニア新書) 
◆岩倉使節団 『米欧回覧実記』(田中彰著 岩波現代文庫) 
◆『砂糖の世界史』(川北稔 著 岩波ジュニア新書)
◆『世界システム論講義 ー ヨーロッパと近代世界』(川北稔 著 ちくま学芸文庫)
 
 
 
 『私は黒人奴隷だった』(岩波ジュニア新書 本田創造 著)

 1818年に黒人奴隷の子として生を受けた少年が、苦労しつつ文字を学び社会を見る目を成長させていく過程。自由を勝ち取った後も危険に身をさらしつつ各地で行った奴隷制反対の演説活動。その中でさらに開かれていく視野。この本はリンカン米大統領と同時代を生きたフレデリック・ダグラスの物語です。彼は様々なチャンスをつかみ自由の身を勝ち取り、黒人解放運動に身を捧げました。
 南北戦争中リンカン大統領が発布した奴隷解放宣言でアメリカの奴隷制度が廃止されます。しかし黒人達はそれまで黙って堪え忍ぶだけの受け身の存在ではありませんでした。たとえば「地下鉄運動(アンダー・グラウンド・レイルロード)」という運動があります。これは奴隷制度から逃亡した南部の黒人をかくまう宿泊所である「停車場」とそれを提供する「駅員」、人目を避け黒人を案内する練達の「車掌」たちで組織され、彼らに導かれた「客車」で「終着駅」のアメリカ北部やカナダをめざすという、命がけの非合法運動でした。この運動には白人も多く関わりました。しかしこの運動で自由を勝ち得た黒人自身の中から、地下鉄運動の優れた「車掌」が生み出されました。
 もったいないことに、高校世界史の教科書では奴隷制廃止運動そのものの記述はほとんどありません。奴隷制廃止運動は、社会正義を求める人々の勇気と創意工夫を学ぶ優れた教材でもあるのですが。

 
  残念ながらこの本は現在絶版になっていて、図書館で読むか古書を探すしかありません。再版が望まれます。かわりに同じ著者が岩波新書に書いた『アメリカ黒人の歴史』を紹介しておきます。この本は植民地時代から20世紀の黒人解放運動までの、より長い期間を取り上げています。
 この本は初版が1964年に出版(青版)されました。この年は公民権運動の一つの成果である公民権法が成立した年で、前年にはキング牧師の演説で有名なワシントン大行進が行われています。まさに公民権運動のまっただ中で書かれた書物です。そしてその後の運動の歴史も踏まえて、新版が1991年に出版(新赤版)されました。長く読み継がれてきた名著です。
 
 
 
 
 
 『フランス革命  歴史における劇薬』(遅塚忠躬 著 岩波ジュニア新書)

 近代史の大事件であるフランス革命には多くの人が関心を寄せ、小説に、映画に、お芝居に、アニメに取り上げられてきました。興味深い人物や劇的事件にも事欠きません。

 しかし革命とそれに関わった人々へはしばしば対立する評価が与えられてきました。
 ルイ一六世は開明的君主か、決断力に欠ける凡庸な人物か。
 マリー・アントワネットは悲劇の王妃か、革命を自らたぐり寄せた驕慢で愚かな人物か。
 ロベスピエールは清廉で正義感に富む革命指導者か、血に飢えた独裁者か。
 評者によって多くの人物が対照的に描かれてきました。

 『フランス革命  歴史における劇薬』の著者である遅塚忠躬(ちづかただみ)氏(1932年〜2010年)は、古い社会を変革すると同時に血なまぐさい恐怖政治を伴ったフランス革命の「偉大と悲惨」は、別々のものではなく表裏一体であったと論じています。たとえば、虐げられた人の権利を守ろうとするロベスピエールの正義感は社会変革のエネルギーになると同時に、独裁と恐怖政治もまさにそこから生じてきたというのです。なぜそうなるのか。それはロベスピエール個人の資質に加え、旧体制下のフランスとそれを取り巻く状況を考察せずして理解することはできません。この本は「歴史的から学ぶとはどういうことか」を深く考えさせてくれると思います。

 氏は巻末で歴史を学ぶ意味を三つ挙げています。

 一つ目は過去から現在への変化の筋道を知り、現在を理解する参考とすること。
 二つ目は現在と異なる過去を学ぶことで、今のわれわれのあり方を反省すること。
 三つ目は歴史に生きた人々の偉大と悲惨を知り、それに共感し感動すること。

 「理解」と「反省」と「共感」。歴史の扉はどこから開いてもかまわないのですから、この新書に取り上げられた挿話の一つを最後に紹介しておきます。
 ジロンド派の革命指導者だったコンドルセはロベスピエールの独裁時代に逮捕され、翌日獄中で自殺します。逮捕の直前に書き上げた「人間精神進歩史」の最終章に、彼は人間精神の無限の進歩を信じて次のように書きました。

 「いつの日か、太陽が、この地球の上で、自由な人間だけを、つまり、自分の理性以外には主人をもたない自由な人間だけを、照らすときがきっと来るだろう。」
 
 著者の遅塚忠躬氏は北海道大学、東京都立大学(現在の首都大学東京)、東京大学、お茶の水大学と多くの大学で研究を重ねたフランス革命史家です。氏は東京大学文学部で研究と教鞭をとっていた時におこなった史学概論の講義録をもとに、『史学概論』(東京大学出版会)を出版しました。これは大学で行われる史学概論のテキストの決定版といってよい本です。

 最近これを読んで驚いたのは、今回紹介した『フランス革命』という高校生向けのジュニア新書が、氏が『史学概論』で論じている歴史学の厳しい方法論に則って書かれていることです。高校生向けだからという安易な姿勢は微塵もありません。大学生、大学院生向けの『史学概論』を読まずとも(実際これは世界史を学び始めたばかりの高校生には難しすぎます)、『フランス革命』を読めばそのエッセンスを理解することができます。

 はしがきにもありますが、遅塚忠躬氏はガンと闘いつつこの『史学概論』を執筆しました。この本は2010年5月に出版されましたが、この年の11月に氏は逝去されています。しかしそんな闘病の苦しみを全く感じさせない、精緻で厳密な論理が展開されています。学問に対する氏の厳しく揺るがぬ姿勢に、胸を打たれます。
 
  『史学概論』の表紙を飾っているのは小原馨という人の絵です。画像検索してみてください。素晴らしい絵がたくさん出てきます。

 
 
岩倉使節団 『米欧回覧実記』(田中彰著 岩波現代文庫)

 1871年(明治4年))から1873年(明治6年)にかけて、岩倉具視を正使とする総勢100名を超える大使節団がアメリカ合衆国、ヨーロッパ諸国に派遣されました。目的には欧米各国への表敬と不平等条約改正の予備交渉に加えて、各国の制度・文物・文化などを幅広く見聞し調査することが含まれていました。随員に加わっていた久米邦武(のちの歴史学者)が帰国後執筆したのが『特命全権大使米欧回覧実記』です。
 東京大学が2008年、一橋大学が2010年の世界史個別試験で『米欧回覧実記』を取り上げ出題しています。特に一橋大学の問題文がよい紹介となっているので引用します。

 「随行した久米邦武が帰国後にまとめて出版した記録『特命全権大使米欧回覧実記』には、多くの風景スケッチや各国についての概説がもりこまれており、明治初年の日本人が欧米に対してどのようなまなざしを向けていたかを知ることができる。とくに、本書で久米が大国だけでなく、東欧や中欧の小国についても十分な紙幅を割き、それぞれが有する可能性と直面する課題を論じていることは注目に値する。小国に対するこのような関心は、その後、日本が大国への道を歩み始めるにつれて急速に薄れていくことになる。」

 『特命全権大使米欧回覧実記』は岩波文庫から出版されています。名文ですが、漢字カタカナ交じりで現代っ子には少し読みづらいかと思います。この『回覧実記』を紹介しつつ論じたのが日本史研究者田中彰氏の「岩倉使節団 『米欧回覧実記』」(岩波現代文庫)です。『米欧回覧実記』には使節団が見た風景や建物の精緻な銅版画が多く収録されているのですが、田中氏は実際に使節団の足跡をたどって旅し、その銅版画と同じ角度から写真を撮り掲載しています。そして氏も宮殿、劇場、工場、病院、動物園、水族館、博物館、各種の教育施設から消防署、兵営、牢獄まで貪欲に視察して回る使節団に驚嘆し、「いかにその国のあらゆる機構、あらゆる機能、あらゆる使節をトータルにとらえようとしていたかが理解できる」と書いています。明治の初期、こういう知的貪欲さが近代日本建設の土台にあったのでした。
 使節団が旅した時期を見ればわかるように、アメリカでは南北戦争が終わり大陸横断鉄道が開通して間なしの頃で、ヨーロッパではフランスが普仏戦争に敗れパリ=コミューン弾圧の惨劇を経験し、ドイツはプロイセンによるドイツ統一が成ったばかりの時期です。使節団はビスマルクとも会談し、彼の話に強い印象を受けています。それは爾後の日本の進路にも影響を与えるものでした。日本が近代国家建設に船出し、世界を直接見聞した記録は大変興味深いものです。日本史選択者にも世界史選択者にもお勧めします。
 
 
 
 こちらは実際の『米欧回覧実記』。岩波文庫で全五巻。なかなかの分量です。
 
 
『砂糖の世界史』(川北稔 著 岩波ジュニア新書)

高校で世界史を学習する人にとって、古典といってよい本です。
 この本には歴史的有名人はあまり出てきません。テーマは私たちのごく身近にあり普段ほとんど気にせず口にしている砂糖です。かつて限られた地域の限られた人しか口にできなかった砂糖が、なぜ世界に普及していったかがダイナミックに描かれています。そして時は18世紀。産業革命期のイギリスの労働者階級に砂糖入り紅茶を基本とするイギリス風朝食が普及した背景に、カリブ海の島、アフリカ大陸、ヨーロッパを結ぶ大きなヒトとモノの流れができあがっていたことがわかるのです。そしてそれは今の世界にまで続く富の偏在と格差・貧困の始まりでもありました。歴史と社会を見る目を養うのに格好の書物です。
 
 
『世界システム論講義 ヨーロッパと近代世界』(川北稔 著 ちくま学芸文庫)

 上で紹介した『砂糖の世界史』は、アメリカの歴史学者ウォーラーステインの提唱した「世界システム論」という考え方に基づき書かれています。著者の川北稔氏はこの考え方を日本に紹介した先駆者です。世界システム論とは、近代世界をばらばらの国の集合体として考えるのではなく、互いに影響し合う有機体としてとらえる考え方です。このとらえ方によれば、ある国が「先進国」となったのは別の国が「低開発国」となったのと表裏一体のことなのです。単に「頑張った」から先進国となったのでも「劣っている」から後進国となったのでもありません。では、その格差を生み出すシステムとは何か。それを一般向けにわかりやすく解き明かしたのがこの本です。
 この本は高校生には少し難しいかも知れません。しかし「世界システム論」は目の前の高校世界史教科書にも影響を与えている考え方です。これを読み知的刺激を覚えるような生徒であってほしいと思います。
 
 

    
  
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