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『ガウディの鍵』(エステバン・マルティン/アンドレウ・カランサ) 門間 紀子
 
一言で言えば「ダ・ヴィンチ・コードのバルセロナ版」です。建築家ガウディの死の真相に迫るミステリー(もちろんフィクション)です。この本をおすすめするのは,科学的な事実や史実をそのまま受け止めるのではなく,「もしかしたら背後には面白いことが隠れているかも」と好奇心を持って,これからの日々の生活を過ごしてほしいと思ったからです。さらに,読んだ物語の舞台を訪れる機会があれば,もっと面白いはずですよ。

『たとえ,今日がさんざんな日であったとしても』(プレム・ラワット) 内田康晴
もし私が,タイムマシンに乗って高校を卒業したばかりの自分自身に一瞬だけ会えるとしたら,どんなことをいってやりたいか?
「大学受験が終わって,「済んだ気に」なってんじゃないぞ。もしおまえが,何かを勉強したいと本気で思ってるのなら,それはこれからが本番だ。大学生活は自由だ。どんなふうにも過ごせる。だからこそどう過ごすかが大事だ。こんなときは,人生でもう2度と来ないぞ。死にものぐるいで勉強しろ!いいか,これは60歳になった未来のおまえからの必死の伝言だ!」
間違いなく,こう言うと思います。のんびりと怠けて過ごした40年前を悔いながら。
冒頭の本は,今あるいは将来,このタイトルを見て思わず手にしたくなった人におすすめの本です。いや本当は,いつも順風満帆というわけにはいかない人生を生きるすべての人に、おすすめです。

『星々の悲しみ』(宮本輝) 亀山佳紀
『星々の悲しみ』は、同題名の短編集に収められた一編です。主人公は読書に現実逃避する浪人生。その主人公が経験するのは医学部を狙う秀才友人のあまりにあっけない死です。何にせよ生きていくというのは簡単じゃない。ましてや一人の子供をここまで育てることの重み。で、何が言いたいか。今日ぐらい育ててくれた人に「ありがとう」と言いましょう。

『知的複眼思考法』(苅谷剛彦) 原田寛之
 
三年生の皆さん,ご卒業おめでとうございます。出会い多き三年間であったでしょうか。私はこの本を紹介します。お勧めするタイミングは「学生時代」ではなく「新たな生活を迎えるまで」つまり,四月一日までです。出会いの対象は人だけではなく,書物,芸術,学問,概念など様々です。それらに出会う前に読むことをお勧めするわけです。
この本が与えてくれるのは,新たな世界や新たな価値観,というわけではなく,これから出会うものに対する見方や接し方についての一つの視点です。
 これから多くの「正解のないもの」と出会う皆さんにお勧めするのに適した一冊であると思います。出会いのための事前準備,デートためのデートコースの下見,ライブのための新曲の予習のようなものだと思ってください。これからの皆さんに多くの良き出会いがあることを期待します。

『名門校とは何か?』(おおたとしまさ) 西原智子
「時代の変化とともに人々に求められる能力は確かに変化するが、人間の本質が変わる訳ではない。教育をいじるのであればどこを変えるべきでどこを変えてはいけないかを明確に区別しなければならない。『不易』と『流行』である。建学の精神や教育理念など『不易』の部分を変えてしまったらその学校はその学校ではなくなる。」
この本には全国の名門校が登場しますが何と朝日高校と似ていることか。朝日が大好きで二十二年も勤務しましたが、この本からは「不易」の部分が揺り動かされない名門校が持つ「酵母」の正体が見えてきます。「人はなぜ勉強するのか」「生きる力とは何ぞや」「教育の目的は何か」…この酵母こそが皆さんが育った朝日高校にあり、朝日らしい空気が醸成するタネなのです。朝日高生らしく生きてください。

『幸せはあなたの心が決める』(渡辺和子) 依田耕治
 
この本には、自由人とは、自分の幸せも不幸せも自分の心で決められる人であり、心の自由は自分のものの見方にかかっているとあります。ものの見方として、挫折は自分を考え直すチャンス、世の中はうまくいかなくて当たり前。うまくいったら感謝しよう。などがあげられています。
皆さんも今後いろいろな経験をし、いろいろな価値観に触れる中で、心に芯をつくり、真の自由人となって自分だけの花を咲かせてほしいと思います。私も皆さんの活躍の報が、人生のささやかな喜びとなればよいと思っています。

『私が愛する世界』(ソニア・ソトマイヨール) 粟井利彦
 
著者はヒスパニック系の女性として初めて米国最高裁判所判事に任命された人物です。任命したのはオバマ前大統領。彼女は英語を母語としない環境に生まれながら、プリンストン大学を首席で卒業しイェール大学法科大学院に進みました。素晴らしい才能と輝かしい経歴を持つ人物ですが、彼女が今の地位を勝ち得たのは個人的才能だけによりません。彼女の背を押したのはaffirmative action という、社会的ハンディを持つマイノリティに教育や雇用の優先枠を与え格差是正を目指す政策です。その恩恵を得て才能を開花させた彼女は次のように書いています。
 「私は、幸運というものを、私自身を救う機会とは見ていない。与えられる贈り物ではなく、一つの委任なのだと考えている。そして、その価値ある使い方を見いだすまで、精神的な安らぎは得られない。」卒業してゆく諸君がそれぞれに委ねられた価値ある課題を見いだすよう願っています。

『お金でなく、人のご縁ででっかく生きろ!』(中村 文昭) 岸本 史雄
 
これから多くの人と新たな出会いを迎える皆さんに表記の本をお薦めします。皆さんは、人に物を頼まれたとき、どのような心境になりますか?「面倒くさい」と捉えてしまうことがあるかもしれません。人は一日に小さいことを含めると、200回近い頼まれごとをされているそうです。「お茶入れてくれない?」であっても頼まれごとの一つです。相手が期待する結果の2、3段上に目標設定し、頼まれごとに取り組んであげましょう。
 この本には人と生きていく上で大切になることがたくさん書いてあります。人と出会うことは素敵な事で、我々は人との出会いによって成長していきます。その不思議な縁を大切にしようと改めて気づかせてくれる一冊です。

『沈黙』(遠藤周作) 藤澤啓三
「私は沈黙していたのではない。お前たちと共に苦しんでいたのだ。」

『ブッダ』(手塚治虫) 『ファウスト』(ゲーテ) 水川敬介
人はどこからやって来て、どこへゆくのであろうか。これから社会に船出し、幾多の波に向かい、いろいろな人と出会い、別れ、その折々に人生と向かい合う。きっと皆さんの心の琴線に触れるものがあると思います。同じ意味でもう一冊。私が高校時代に読み、おすすめするのがゲーテの「ファウスト」です。天空・時空を駆け巡る大スペクタクルにちりばめられた美しい宝石、比喩

『困っているひと』(大野更紗) 大空真
 
私は高校を卒業するときに恩師の先生にこう言われました。「本をたくさん読みなさい。何でもいい。いろいろなものを和書洋書問わずだよ。」と。幼い頃から本好きの私ですが、その言葉を今でもきちんと覚えていて月に10冊前後は本を読んでいます。その中でも今回は大野更紗著「困っているひと」を推薦します。この作品は一言で言ってしまえば「難病を患った大学院女性のユーモアあふれる闘病日誌」なのですが、高校時代に同じように難病を患った自分としては人ごととは思えず、この作品を読んで「当たり前のように」生きていることがいかに尊いか、いかに感謝すべきことなのかを再確認できました。皆さんは「生きることは何か?」なんて堅苦しく思うかもしれません。でもそういう人こそ是非この作品を読んで欲しいのです。苦しくてつらくてどうしようもない状況であるはずなのに、力強い生命力を感じ取ることができます。苦しくてもつらくてもそこから逃げない。それが生きる事だとこの作品は教えてくれます。「難ばかりの今日も。今日も、みんなが、絶賛生存中。」(本文のまま)あせらず、たゆまず、おこたらず、生きて欲しいと願いこの本をオススメします。

『ぼくらは生まれ変わった木の葉のように』清水邦夫 作 難波 賢次
『ぼくらが非情の大河をくだる時』(一九七二新潮社)所収
 高校一年の夏、演劇部の部室を訪れて、最初に読んだ脚本。タイトルの裏には詩の引用。
  泣かないのか?
  泣かないのか?
 一九六〇年のために
  ぼくらは
  生まれ変わった
  木の葉のように
  無力なギリシャへ
  出かけよう
  (A・ギンズバーグ)
 脚本そのものよりも、この一節によって私の十代は変わってしまった。それほどの衝撃だった。
 卒業生の諸君、文学でも哲学でも音楽でもいい、どうかそれぞれが芸術との幸福な出会いを持てますように。

『小説十八史略(全六巻)』(陳舜臣) 平松美喜雄
 
十八史略については漢文の授業で学習した『史記』の鴻門の会や四面楚歌に関連して聞いたことがあるかも知れません。中国の歴史書で最も有名なのは司馬遷の『史記』ですが,それより長い年代に渡り記載され,コンパクトにまとめ読み易くしたものが『十八史略』で,中国古代の神話の時代から南宋の末までの時代について述べられています。日本でもかつては旧制中学校などで教えられていたそうです。歴史書の面白さは,広大な空間を長期に渡り時間的に俯瞰できるという点にあると思いますが,中国の歴史書は人間を主体として記述しているので歴史の流れが生き生きとした血の通った生の営みとして感じられます。(余談ですが司馬遷は『史記列伝』で特定の人物に焦点を当ててその時代を特徴的に記述しています。これも大変面白く読める本です。)
 ここで紹介する『小説十八史略』は題名通り小説の形をしており,作家陳舜臣氏によって更に読み易く興味深く書かれています。数千年に及ぶ時代の変遷をダイナミックに人物を中心にして描かれています。政権や権力者の極度な贅沢や相続争い,腐敗堕落や権力争いによる弱体化と社会の混乱,新勢力の台頭や戦乱と武力による政権交代,やがて何世代か経て新政権の同様の理由による弱体化と社会の混乱,このパターンが繰り返され時代が流れていく。支配者の奢侈を支えるための搾取や圧政,戦乱に駆り出される民衆の兵役や徴用,苦しむ民衆のあえぎが聞こえてきそうです。このような支配や社会の混乱が数千年に渡り継続されてきたら人々はどのように対処する知恵を絞るでしょうか。現在の中国の人々の考え方の基本はこのような歴史から理解できるような気がします。隣国中国との関係は今後ますます深まると思います。かつての日本で基本的な教養として学んでいた中国の歴史,現代の私たちが学ぶべき点は多々あると思います。
 小説の形でなく,もう少し客観的に記述したものに河出書房『新十八史略(全六巻)』があります。こちらも続いて読めばより詳しく理解できると思います。また中国の古典には『孫子』,『韓非子』,『戦国策』など人間の本質を追求しそのエッセンスを抽出した名著がたくさんあります。このような古典にも是非とも触れて欲しいと思います。いずれにしても中国の古典は人間知の宝庫です。一生の宝として座右に置いて欲しいと思います。




『自由と規律』(池田 潔)
時岡 英雄
推薦する本は、岩波新書の「自由と規律」です。1949年に発行され、私が購入したものは第97刷発行のものです。長きにわたり、読まれ続けています。自由の精神が厳格な規律の中で見事に育まれてゆくイギリスでのパブリックスクールの教育システムを、体験を通して興味深く描いたものです。『伝統への愛着と、必要とあらば潔くこれを改める勇気』、『自由と放縦を区別するものは、これを裏付けする規律があるかないかによることは明らかである』、『自由は規律をともない、自由を保障するものが勇気である』などの文章。この本全体から「自由を尊重する態度を持つ良識的な大人とならんことの尊さ」を感じ取ることができます。



『漫画 君たちはどう生きるか』(原作 吉野源三郎・漫画 羽賀翔一) 大西 秀規
 「漫画 君たちはどう生きるか」の原作は,1937年に出版されており,日本とそれを取り巻く状況も厳しい時代であったと思います。その時代にどう生きるべきかを考えることと今の時代に考えることも大切なことは同じであると思います。漫画でも原作でも良ければ読んで,これからどう生きるかを考える手助けにしてください。
 「まず肝心なことは、いつでも自分が本当に感じたことや、真実心を動かされたことから出発して、その意味を考えてゆくことだと思う。君が何かしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、少しもごまかしてはいけない。」(本書の一節より)



『梅原猛の授業 道徳』(梅原 猛) 新川 直亮
お薦めの本は「梅原猛の授業 道徳」です。先頭に立つ者として,それ以前に人としてどうあるべきなのか。人が行うべき正しい道は何なのか。わかりやすく書いてある本です。是非読んで見てください。
難題を多く抱えたこの国や世界の「徳」のあるリーダーになってください。ご活躍をお祈りいたします。



『「聖書』 永田 宏子
 最初に断っておきますが,私はクリスチャンではないし,キリスト教への入信を勧める気もありません。しかし『聖書』は一度は手に取り,読むべき書物であると思います。
 『聖書』の知識は現代人にとっての教養です。パレスチナでうまれたキリスト教は,欧米のみならず世界中に20億人を超す信者を有しています。この宗教は世界史で学習したように世界の政治・経済・文化に広範な影響を与えてきました。宗教対立が影を落とす21世紀だからこそ,グローバル社会で活躍する皆さんがこれから出会う人々の基盤となっている思想の一つを知ることは意味のあることです。ぜひ,チャレンジしてください。



『アラバマ物語』(ハーパー・リー) 信宮 優子
2003年、American Film Institute(AFI) 選出の「アメリカ映画100年のヒーロー」で、インディ・ジョーンズやジェームズ・ボンドを抑え第一位であったのは、「アラバマ物語」の主人公、弁護士アティカスであった。1930年代アメリカ南部、暴行の嫌疑をかけられた黒人青年を裁く法廷で、白人弁護士が正義とは何かを社会に訴え、彼の二人の子らは黒人席で父の姿を見守る。このアティカスが、最も偉大な映画ヒーローに選ばれたことに、アメリカの良心を感じ、いまなお心が震える思いがする。
アメリカの学校では必読書であると聞く。「正しく生きる」ことの貴さを思い出せる一冊である。
三年間多くの場面で私の話を熱心に聞いてくれた皆さんに感謝しながら、最後もやはりいつもと同じ言葉でお送りしたく思う。「迷ったら、正しい方を選ぶ」



『琥珀の夢』(伊集院 静) 橋本 美未
社会に出る時が近づいてきたみなさんに、サントリーの創業者である鳥居信治郎氏の生涯を描いた作品を紹介します。家族の元を離れて丁稚奉公に出た少年が周囲の人の中で成長し、自分の夢を実現していきます。
印象的なのは作品中の信治郎の言葉。
―「千度は千回やで。そないしてへん。ほれ、やってみなはれ。必ずでけるよって」
―「わてが使う銭は皆がしあわせになりま」「…皆がしあわせ?ほんまにそんなことを信じてんのか」「信じてんのとちゃいます。わてはそれをやり通しま…」
夢に向かってひたむきに努力し続ける先人の姿が読み手にも力をくれる作品です。



『英語達人列伝―あっぱれ日本人の英語―』(斉藤 兆史) 平松 美喜雄
 本書で取り上げられている英語の達人たちは、明治の初頭から大正にかけて英語を学び、後に日本を代表する著名人となった十名の先達である。新渡戸稲造・岡倉天心・鈴木大拙・幣原喜重郎・野口英世などは知らない人はいないであろう。他に英語教育界で顕著な功績のある斉藤秀三郎・岩崎民平、詩人の西脇順三郎や戦後処理に尽力した白洲次郎なども取り上げられている。彼らがいかに英語を学びどのような業績を残したかなど、様々なエピソードや著者自身が調査した裏話なども交え紹介している。各々の達人の解説には約二十頁を割り当てての読み切りであるので気楽に誰からでも読み始めることができる。当然彼らが英語を学ぶ環境は現代とは大きく異なり、劣悪と言わざるを得ない。彼らの英語学習の方法なども紹介されておりそれも参考になるが、何よりも圧倒されるのはその読書量・勉強量である。二、三例を挙げてみると、斉藤秀三郎は工部大学校(東京大学工学部の前身)に在学中のわずか三年間で図書館にあった英書を読み尽くし、『大英百科事典』(ブリタニカ百科事典全三五巻)を二度読んでいる。新渡戸稲造も非常な多読家で札幌農学校在籍中(一五歳~十九歳)に、図書館にあった書物(ほとんどが英書)を全て読み尽くそうという野心を起こし、数日で英書一冊を読み終えていたとのことである。野口英世の勉強ぶりも有名である。彼は村の寺子屋で九歳から漢文と英語を学び始め、当時の旧制中学校英語教科書『ナショナル・リーダー』(全五巻)を用いていた。その後の高等小学校では第四巻を読了しており、その頃にはよく博物学の原書等を繙いていた程であった、とのことである。小学校卒業後は医師の書生となり、医師免許取得を目指し猛勉強していたが、英語も勉強を続けており、十六・七歳の時には『カーライル伝』(全四巻)から『クライブ伝』を読破していた。さらにはドイツ語・フランス語も身に付けたとのこと。
このように明治・大正の先輩達は大量の読書と勉強をしていたことが示されている。やはり何か学問をものにするためには読書は必須であろう。私自身を顧みると、和書と同様、英書の読書量も貧弱なもので、専門の文献等とは別に小説・エッセイの類いはせいぜい十数冊程度であろう。野口英世の小学校時代より少しましな程度である。皆さん自身はいかがですか。卒業を機に英語の原書に取りかかるのも一つのチャレンジと思う。差し当たり昨年ノーベル文学賞を受賞されたカズオ・イシグロ氏の小説に挑戦されてはどうでしょうか。



『地球の歩き方』(地球の歩き方編集室)
『日本文化を英語で紹介する事典』(杉浦 洋一)
  村井 容子
私は何のこだわりもなく,その時々で読みたい本を読んできました。後でじわじわ効いてくるものもあれば,何年後かに読み返すと違った感覚を与えてくれるものもあります。皆さんも「学生時代」というくくりに縛られず,タイトルでもイラストでも書評でも,「?!」と思った本があれば手にとってください。きっと素敵な発見があります。
『地球の歩き方』と『日本文化を英語で紹介する事典』の2冊を紹介します。グローバル化やIT化で内外のあらゆる情報が簡単に手に入る今だからこそ,自分の足で赴き,自分の目で見て感じてください。そして,自分たちの背景にあるもの知り,誇りを持って欲しいと思います。



『生きていくあなたへ』(日野原 重明) 西原 智子
105歳で天寿を全うされた聖路加病院の日野原先生が書かれた最後の著書です。1995年の地下鉄サリン事件の時に600名もの患者を受け入れた聖路加病院は日野原先生の提案で、万一の時に備えて広い廊下やロビーの壁に酸素吸入などの装置が埋め込まれていて、そのおかげで生死をさまよう多くの患者が救われたそうです。
日野原先生のこの著書の中には心に響くたくさんの言葉がありますが、朝日高校の指導にもつながるこんな文章がありました。「子供を愛し、期待すればこそ「こうなってほしい」という理想を抱くこともあるでしょう。しかし、それを強いるというのは、子供の潜在能力を封じ込めることにつながりかねません。「これをしなさい」「あれはダメ」というのは、子供を守っているつもりでも、実はその可能性をつぶしてしまっているのかもしれないのです。それは親の意見であり、自分の価値観を知らず知らずのうちに子供に圧しつけているだけかもしれません。
子供はまだ小さくて何もできないように思えるかもしれません。しかし子供に与えられた潜在的な能力は宇宙のように計り知れないものなのです。その子だからこそ神様が与えた能力がある、ということを信じて待つ。忍耐を必要とすることかもしれません。でもそれこそ親の持つ、最大の役割なのだということを母が教えてくれたのです。(原文より一部抜粋)」
朝日高校には「信じて待つ指導」という伝統があります。これから大きな世界に旅立つ皆さんはそのような学校文化の中で朝日高生として成長して来ました。ここから旅立ち、後ろを振り返った時に、皆さんの「潜在的な宇宙のような才能」を私たち教員は信じて指導できたでしょうか?逆に皆さんは自分の生き方を、親や先生に判断を依存しては来なかったでしょうか?
同じ著書の中で「自己がある生き方というのは、簡単に言うと自分という人間がどこへ向かって生きていくのか、きちんと意識できている、確信が持てている状態のことです。」
とあります。近い未来に自己を確立し、いつか皆さん一人一人が持っている力が、世界中のいろんな場所で輝きますように。



『蜜蜂と遠雷』(恩田 陸) 海本 真理子
 『蜜蜂と遠雷』は、実力考査で出題しました。音(聴覚的な感覚)を、言葉で追体験させてくれ、清々しい印象を与えてくれる表現力が見事です。才能ある若きピアニスト達は、互いに刺激しあって、それぞれがさらなる音楽の高みへと登り成長していく。その姿が、朝日高校という環境の中で成長してきた皆さんと重なりました。一生懸命、無心に何かに打ち込むこと、他者の素晴らしさを認め刺激されて飛躍すること、またそこで見えた新しい世界、そして満ち足りた感じ、幸福感。これからも、高き志を持ち自らの才能を信じて、そういった高みならではの感覚を経験し成長していってほしいと思います。



『卒業』(重松清) 中桐 ゆかり
本作は、家族や他者の関係の中で抱く苦悩を乗り越え、新たな境地へ進むための「卒業」を綴った短編集です。特に、「親子って、もっとざらざらしてる」という言葉が強く印象に残っています。他者との関係はまさに摩擦です。ぴったりと合うことはほとんどなく、ずれて傷つくからこそ、自分の形だけでなく相手の形が分かり、思いを重ねたいと願うのだと思います。これからどの道を進もうとも他者との関係の中で煩悶し後悔することはあるでしょう。だからこそ、その苦難も後悔もいつかは自分の成長の糧になると信じ、強く生き続けてください。今後、限りなく広がる未来で活躍することを心から願っています。



『大人になるためのリベラルアーツ』(石井 洋二郎・藤垣 裕子) 平田 丞二
 皆さんにお薦めする本のサブタイトルは、~思考演習12題~です。著者は東大の先生方で、大学での実際の先進的な授業がもとになっています。リベラルアーツは、多くは「一般教養」と訳されますが、「教養」の本質的な意味に向き合ってみてください。
 本書で具体的に扱われるのは、「コピペは不正か」・「絶対に人を殺してはいけないか」など、ドキッとさせられる興味深い12題です。それぞれの問題について、東大生の議論も紹介されますので、一緒に考えながら読み進めて、「思考の限界」に挑戦してみて下さい。「知」の大海へ漕ぎ出す皆さんの、よき羅針盤となること請け合いです。後悔なきよき航海を祈念しています!
 

『国家の品格』(藤原 正彦)   渡辺 靖史
 数学者でもある藤原正彦の、美しい情緒と形を身につけた日本人になって欲しいという思いが詰まった本です。併せて『天才の栄光と挫折』『心は孤独な数学者』もお薦めです。
                                                        

『科学者が人間であること』(中村 桂子)   田中 晴美
                                                        


『禅脳思考』(辻 秀一)   大口 正行
 この本は、医学や心理学等の専門用語が多く出てきますが、説明はわかりやすくされています。自分の最高のパフォーマンスを上げるための禅的な脳の使い方について書かれています。自分の能力を最大限に発揮したい人は、ひとつの参考になると思います。
                                                        

『門』(夏目 漱石)   辰田芳雄
昨年(2016年)は漱石没百年で賑わったが、今年(2017年)は漱石生誕百五十年。当然、正岡子規や南方熊楠も生誕は同年だ。どうだろう、英語教師だった漱石の著書を読んでみないか。主人公野中宗助が円覚寺の老師に与えられた公案「父母未生以来本来の面目は何か」に答えてみてくれ。昨年朝日新聞に複刻的に連載されていた第八回(明治三十四年三月八日)では、宗助は五、六日前伊藤公暗殺の号外を見たとき、御米の働いている台所へ出て来て、「おい大変だ、伊藤さんが殺された」と言った。御米は「貴方大変だっていうくせに、些とも大変らしい声じゃなくってよ」と言う。当時の時代背景や東京の若い女性の言葉遣いにも魅力を感じた。次に読む時は何にひっかかるか。
                                                        

『九つの、物語』(橋本 紡)   中村 崇
 私は頭を使う本が割と好きなので、アガサ・クリスティーとか、最近だと辻村深月が好きなのですが、今回は学生時代ということなのでこの本を紹介します。まあよくある話ですが、話の中で様々な小説(田山花袋や内田百閒など。百閒は皆さんの先輩ですよね)が出てくるのをきっかけに、それらにもふれてもらえたらと思います。皆さんの前にはたくさんの世界が待っているのですから。
                                                         

『The Remains of the Day』(Kazuo Ishiguro)   島村 精二
おすすめのラスト一節を紹介します。
 You’ve got to enjoy yourself. The evening’s the best part of the day. You’ve done your day’s work. Now you can put your feet up and enjoy it. That’s how I look at it. Ask anybody, they’ll all tell you. The evening’s the best part of the day.
                                                       

『日本文学史序説 上・下』(加藤 周一)   粟井 利彦
 知の巨人・加藤周一の残した名著。多くの外国語にも翻訳されている。「文学」という言葉で我々が普通イメージする平安の和歌や物語、江戸の俳句、明治以降の小説等々にとどまらず、漢文、漢詩や仏僧、儒者の著作も取り上げ、それらを産んだ社会的背景を論じている。もはや一般的な文学史の域を超えた日本思想史であり、しかも背景には筆者の外国(特に西欧)の思想・哲学に関する広い知識の裾野がある。内容は深く鋭い。表現は明晰で簡潔。日本語で思考し、書くという営みの最高峰がここにある。いかに社会がグローバル化しようと、我々は日本語で考え表現する以上のことを外国語で行うことはできない。優れた著作を読むことは単なる知識獲得の手段ではなく、思考能力の鍛錬でもある。いわゆる文系・理系の区別なく、大学でさらに学びの道を究めようとする諸君にこの本を勧める。
                                                       

『螢・納屋を焼く・その他の短編』(村上 春樹)   大塚 崇史
 大学生の頃の私はこの小説の主人公のように、「もう失われてしまったもの」「これから失っていくもの」「まさに失われつつあるもの」に対して過剰なまでに拘り、自分の懐の中に集めてばかりいました。或る意味でそれは「孤独」と呼ぶべきものだったと思います。友達からの誘いや、サークルの勧誘などはすべて拒絶し、ただ貪るように本を読み、音楽を聴き、映画を観て、自分と同じ形の「孤独」を探していました。勿論、それは一時の熱病のように次第に収まっていくわけですが、それでもあの頃身に纏った「孤独」が、確かに今の私を形成している大事な一部であると言えます。
 「孤独」は惨めでも寂しいものでもなく、人が大人になっていくためには絶対に必要なもの。自分自身の内側に深く潜り、そこにある雑多なもの、美しいものもあれば、目を背けたくなるような汚いものもある、それらとしっかり向き合うこと。そしてそれらをすべて自分だと引き受けられたときに、人は成長することができるのだと思います。今しか経験し得ない「孤独」を大切にし、素敵な大人になっていってください。
                                                        

『桜の園』(アントン・チェーホフ)  矢吹 玲子
 私は、人生のうちの十五歳から二十五歳の十年間は、時代の評価が淘汰する中で受け継がれた「世界の名作」にできる限り触れてほしいと思っています。例えば、私が大学生の頃、とても好きだった作品にアントン・チェーホフの戯曲があります。いわゆる「チェーホフ四大戯曲」と言われる『桜の園』、『カモメ』、『ワーニャ伯父さん』、『三人姉妹』です。戯曲なのでそれほど長くはありませんから、忙しくても是非いま読んで、そして登場人物がみな雄弁に語る内面の世界を味わってほしいと思います。形のない思想や哲学をいかに言葉で表現し伝え、そして受け止めるかという体験は、“大人”になってからの自分自身の言動や考え方に深くそして重大に影響を与えるものです。「桜の園」「三人姉妹」は、現在日本でも繰り返し舞台上演されています。将来鑑賞する機会があるかも知れませんね。
                                                        

『現代読書法』(田中 菊雄)   平松 美喜雄
 著者は明治二六年北海道生まれで少年時代家庭が貧窮に陥り、高等小学校卒業を待たずして旭川駅で列車給仕として奉職。その後近くの高等小学校代用教員として採用されたが、生来向学心が強く厳寒でも布団を敷かず勉学に励み、睡魔に襲われると外套をかぶり仮眠をするという生活を送り、翌年には正教員の検定試験に合格する。更に語学の道に進むことを決心し、二四歳の時に鉄道院に職を得て上京、夜間は英語学校に通うという努力の甲斐あって遂に文部省中等学校教員検定試験に合格する。小学校しか卒業していない者が旧制中学の教員として教鞭を執るという驚異である。猛勉強は続き、三七歳で旧制高等学校教員検定試験合格という前代未聞の大偉業を達成する。旧制高等学校への進学率は当時人口のわずか一%という限られた者だけに許されたエリートコースであり、教員は現在の大学教授よりはるかにそのステータスが高い。そして岩波書店の英和辞典編纂にも携わり一斉を風靡した辞典編纂者としても広く知られた。戦後は新制大学となった山形大学で英文科主任教授として後進の育成に尽力し、昭和五十年に八一歳の生涯を閉じる。
本書はこの様に真に独学のチャンピオンが綴った体験的読書論である。多くの示唆と共感を得ながら、現在のネット社会で獲得する浅薄な知識ではなく、精読に耐え人生修業にも有用となる題材にじっくりと取り組んで欲しい。同じ著者による『知的人生に贈る』も推薦する。
                                                      

『教養の力』(斎藤 兆史)   藤井 省吾
 部活動や勉強など充実した高校三年間だったと思います。一方でなかなか読書をする時間が持てなかった人も少なくなかったのではないでしょうか。卒業後は意識的に読書の時間を増やし、人間的にさらに幅を広げて欲しいと思います。この本は本校で講演をして下さった東京大学の斎藤先生の著書です。グローバル化、AI化が進む社会だからこそ、「教養」はますます重要になってきます。本書では「教養とは何か」について先生の研究も踏まえ書かれています。特に印象に残っているのは「人の立ち振る舞いに現れる教養が大事」というところです。みなさんが将来「あの人はなかなか教養がある」という人物になることを願っています。
                                                        
 
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