『相談課便り』第39号

「アイロンかけ」

松北 髙行

1年ほど前のある日、小学生の息子からボソッと「お父さんはアイロンをかけるのが遅い。」と指摘を受けた。私はそれまで時々気が向いた時にアイロンがけをしていた。

アイロンがけというものはやってみると実に気持ちが良い。乾いた洗濯物にアイロンをかけると、当てたところがみるみる真っ平らになって行く。ワイシャツの袖口がくるりと丸くなったり、ハンカチに折り目の線がついたり。特に妻が忙しそうにしている時に行うと、自分は楽しんでやっているのに「ありがとう」と感謝の言葉まで頂戴できる。

さて、話をもどそう。そんな私を見て、いつも家事に追われながらいそいそとアイロンがけをしている母親と、気の向くままにやっている父親を見比べて、息子は「なんでもっと手際よくできないのか。」ともどかしくなって発言したのだろう。

「なるほど、確かに節電のためにももう少し手際よくできたらいいな。」と思った私はひょっとインターネットでアイロンがけについて参考になるような事が載っていないか検索してみた。すると驚くほど多くの情報がそこにはあり、それまで思いもしなかったようなコツやテクニックが紹介されていた。なんだかすごく嬉しくなってきて、メモを取りすぐに実践してみた。それまで結構力任せに抑えつけていたが、本当は滑らすように使う事が基本であったり、いつも苦労していたワイシャツの襟まわりだが、ここはワイシャツの形を整えておいて、左手で生地が動かないように少し持って縫い目を中心にアイロンの先端でかけていくと意外なほどスムーズにかけることができたり・・・。ウーン、ワンダフル、実に奥が深い。文字通り目からウロコの連続であった。動画のプロのようにはなかなかできないが、それからというもの毎日アイロンをかけることが私の日課になった。

物事には何でもコツがあり、そのコツを工夫して応用していくと事はスムーズに運ぶ。そんなセオリー通りの事が自分の目の前で形になって進んで行く。今ではアイロンがけは、私の密かな楽しみである。

先日息子は隣の席の女子に「この服はお父さんがアイロンがけしてくれたんだ。」と自慢(?)したら、「エーッ!」と言われたそうだ。その「エーッ!」にはどういう意味があったかは深く追求しないことにしておこう。さて、今日は何着アイロンがけができるかな。

「Recollections and Reflections」

信宮 優子

私は父を慕わぬ子だった。父のひざに座った覚えはないし、頭をなでてもらった覚えもない。なでられそうになり、逃げた覚えはある。食事をしても父の隣に座ったことなどほとんどないし、父母に一人ずつついて入る銭湯では、母と女湯に入っていつも姉にぶつぶつ言われていた。幼稚園で「おうちの人の顔をかきましょう。」と言われて描くのは母の顔。小学校で「家族について書きましょう。」と言われて書くのは姉のこと。それでも、父の日に「お父さんありがとう」と書いた覚え・・・くらいはある。

平日はおろか、休日さえも留守だった。家にいるほうが珍しく、夕食はいつも三人で食べていた。入学式も卒業式も参観日も懇談も母だった。父と並んで歩くことに慣れていなかったし、好きでもなかった。周囲から「お父さん似ね」と言われてガッカリしたことは数知れず。「お母さん似ね」と言われる姉と顔を交換したいと常々ひそかに願っていた。

転勤族の父について、あちこち引っ越しするのも嫌だった。押し入れの中をこっそり片付ける母の姿を見つけて、両親に問うのは大概移動の4,5日前。「仕方ないが」と母。「まあ、我慢せえ」と父。姉と二人、涙に暮れた夕べも少なからずある。

のどかな瀬戸内の田舎町を転々としたが、父と遊んだ記憶はあまりない。海やら山やら温泉やら連れて行ってもらったことはあるから、ちょっとは感謝している。夏のとんぼ、秋のあけび、冬のスケートと、四季を彩る思い出もいくらかはある。それでも春の桜は父と見たことがない。陽光目にしみる空を仰いだことがない。そういえば酒盛りも一緒にしたことがない、とふと考える。 (中略)

春も夏も秋も冬も、いつも仕事をしていた父だった。夜中に独り、コップ酒を飲んでいた父だった。朝のみそ汁は欠かさず一緒にすすってくれた父だった。桃の汁でいっぱいの顔をフキンでぐいぐいぬぐってくれた父だった。――数々の姿とともに、病院のベッドの上でたくさんのパイプを付けて寝かされていた父の姿が思い出される。意識がなくなる前には、「子どもには、自分自身の好きなように」、こう母に言ったそうである。

父が死んで14年。これからは、父を亡くしてからの年月が、父と過ごした年月を追い抜くことになる。

これは、私が20代の終わりに書いた、「父」という題名の文章です。

私は朝日高校に赴任して2年目ですが、昨年3年生を担任し、本当に多くの人たちが、卒業後「親元を離れていく」ということを実感しました。そして、皆さん方には、高校時代に、おうちの方々と本当に「良い」時間を過ごしてもらいたいと思いました。積み重なる思い出、深化する思い、とともに。

私には、父との思い出を積み重ねる機会はもうありません。自分の思いがゆっくりと変化するのを傍らで眺める、そんな穏やかな時間があるだけです。皆さんをとてもうらやましく感じると同時に、まだまだお世話になり続け、の齢80の母に、返せるはずのない恩を少しでも、と思うばかりの年末です。

「いじめ問題・悩みに関する調査」結果の概要

神田 美紀

毎年この冬の号では、「いじめ問題・悩みに関する調査」の結果を報告しています。この調査は,教育相談課として長年継続的に実施しているものです。生徒の皆さんが「いじめ問題」についてどのように思っているか、日々どのような思いや悩みを抱えて学校生活を送っているかを調査し、その結果を共に考えることで、気づきや行動変容に結びつくことを期待しています。また、学校でも結果を全ての教員で共通理解を図り、様々な問題に迅速に対応できるよう協議しています。

問A 【いじめ・悩みについての質問】の結果 (抜粋)

☆全体的な傾向
「体調をよく崩す」「勉強の仕方」「将来の見通し」「他人からの評価」の項目は、例年と同じく他項目と比べてややポイントが高くなっています。各学年も生徒の多くが勉強面や将来についての悩みを抱えており、一番の関心事であるだけに不安や焦りなどの気持ちも大きいようです。「体調をよく崩す」は3年生、「勉強の仕方」「将来の見通し」は1年生のポイントが、他学年と比較するとやや高くなっています。3年生は「学校に行きたくないとよく思う」の数値が、1、2年生の時と比べるとやや増加傾向にあり(1年時→1.7 2年時→1.9 3年時→2.0)、また他学年よりもその項目のポイントが高いことが気になりますが、「勉強の仕方」や「将来の見通し」に対する不安は、学年が上がる毎に減少傾向にあります。
「他人からの評価」の項目については、毎年どの学年でもポイントが高く、他人との関係の中で自意識が高まるのもこの年代では当然のことと言えます。また「友人関係」「学校生活」「家族との関係」で悩んでいる1年生の割合が、例年よりもやや高い傾向にあります。

「問A」質問事項3年2年1年
a  生活のリズムが整わず,体調をよく崩す。2.01.91.9
b  友人関係で悩むことがよくある。1.81.61.8
c  学校内に信頼して相談できる人がいない。1.71.51.7
d  勉強の仕方がわからず,集中できない。2.12.12.4
e  将来への見通しが立たず,気力が湧かない。2.12.02.3
f  学校に行きたくないとよく思う。2.01.71.8
g  私には友人がいない。付き合いがうまくいかない。1.41.31.3
h  私はいじめられている。1.11.11.1
i  からかわれたり,手を出されることがあり,いやだ。1.31.31.3
j  言葉や態度で傷つけられることがある。1.31.31.4
k  クラスの中に改めるべき問題がある。1.41.31.7
l  いじめたりいじめられたりしている人がいる。1.31.21.3
m  人が私をどう思っているのかとても気になる。2.22.22.2
n 私のことをわかってくれる人は一人もいない。1.51.41.4
o 家族は私に過剰に期待をかける。1.71.71.8
p 家族には,悩みがあっても相談できない。1.71.71.8
 q 私の落ち着ける場所はない。1.51.31.3

1:あてはまらない 2:あまりあてはまらない 3:ややあてはまる 4:あてはまる 
の4件法で回答し平均値を表す

☆友人関係の悩みについて
思春期~青年期を迎え、心と身体の変化に自分自身とまどいながら、その不安定さの中で人間関係、勉強、進路のことなど、悩みは増える一方です。特に人間関係が広がる高校時代には仲間から嫌われていないか、友人といかに上手につきあうか、ということで不安に思っている実態がこの調査からも見えてきます。悩み苦しむことは、決してマイナスではなく精神的な成長の上では大切な過程です。自分で解決法を見いだしたり、自分の中で折り合いをつけたりしながら大人へと成長していくものです。他人との関係において自分をみつめ、自我の確立をしていくのが、この年代の特徴ともいえます。

☆いじめの実態について
質問h~lまでがいじめに関連した項目であり、その数値は高くはないものの毎年皆無ではなく、いじめにつながるような「からかい」や「言葉の暴力」を含めると、本校にもいじめ問題は存在するということです。こういった行為は、軽い気持ちから何気なく行われているかもしれませんが、された方は想像以上に辛い気持ちになり傷ついているのだということがわかります。周囲の人もそのような場面を見たり聞いたりして不愉快な気持ちになり、クラスに改善すべき点があると答えていると思われます。

問B 【朝日高校に「いじめ」はありますか。あるとすればどのようなことですか】 について(自由記述)

「知っている限りではない」「あまりない」「目撃したことはない」「知らない」が多数の意見でしたが、「軽いからかい」「陰口」「悪ふざけ」「冷笑」「特定の人を避ける」「成績で人を差別」「LINEなどでグループを作って陰で人の悪口、根も葉もないうわさをたて、集団で個人に対して陰で誹謗中傷している」「ネット等への遠回しな表現での書き込み」「物が行方不明になる」など、いじめとも思える事ならたくさんあるという記述も少数ありました。閉ざされた人間関係の中で行われるSNS等でおこなわれるコミュニケーションは、相手の表情が見えないため、相手の感情を推しはかることが出来ず、一方通行のコミュニケーションになりがちです。SNSの中だけに逃げ込むのではなく、目の前の相手の表情や態度を見ながら、他者と向き合いお互いの信頼関係を築き、双方向のコミュニケーションをとってもらいたいと思います。

問C  【もしもいじめにあったり、悩んでいる友人がいたら,あなたはどうしますか】について(自由記述)

「相談にのる」「一緒に改善策を考える」「積極的に話しかける」「両方の話を聞き仲裁をする」「先生や親に相談する」「孤立させない」「陰ながら手助けする」「いじめを許さない雰囲気を作る」など、解決について積極的な回答が例年以上に多くみられ、特に3年生は具体的な支援方法が多くあり、人権感覚の育ちを感じることができました。解決にむけて、多くの人が自分なりにできそうな事を考えて回答してくれたことを嬉しく思いました。この思いがクラス全体、学校全体に広がってくれることを期待しています。一方、「助けを求められたときのみ助ける」「自分がそれに巻き込まれないように気を付ける」「特に何もしない」「放置する」「自分で乗り越えるしかない」「できるだけ関わらない」といった傍観者的な回答も見られました。

(*^_^*) 教育相談課では、悩んだり迷ったりしている人の支援をしています。
いじめられている人、いじめている人、何も出来ずにいる人、どんな生徒の話もその人の立場で聴かせてもらいます。何かすっきりしない思いを抱えて苦しい時には遠慮なく相談に来てください。また、これっていじめかな?と思うようなことを見聞きした時にも是非話をしに来てください。 私たちはいつもあなたの側にいること、そして、あなたにはかけがえのない未来があることを忘れないでください。あなたは決してひとりではないのです。 (*^_^*)