『相談課便り』第55号

ここ一番の勝負

内田 康晴

3年生は「ここ一番の勝負」であるセンター試験が目前である。「ここ一番の勝負」というとき、私には思い出される光景がある。

勤めていた学校の野球部が甲子園に行き,アルプススタンドから応援する機会を得た。試合は,投手戦で劣勢であった。確か1対3くらいのスコアで,2点をリードされて9回の攻撃を迎えることになった。「ここから、ここから!」などと大声を出して応援していたものの、内心私は「もうここまでか。」と思っていた。すぐにツーアウトになり、ランナーはなし。いよいよ最後のバッターだと覚悟を決めて見守る中、その打者は辛うじて三振を免れフォアボールになった。1塁にぽつんと目立たないランナーが立ってはいたが、好投するピッチャーに押さえられて、9回裏ツーアウト。2点のビハインドというところで、ゴロを打ってもフライを打っても,いよいよ終わりだなあと,次のバッターに目をやった。

そこで私は,「おっ」と思った。普段から教室で接している生徒がいた。バットを持った両腕をゆっくり頭の上に回したりして体をほぐしながら打席に向かう彼の表情・雰囲気に私の目は釘付けになった。アルプススタンドからであったが、伏し目がちでかすかに微笑みさえ浮かべているように見える表情が明瞭に見て取れ、彼が最高に集中しかつリラックスした状態にあることが,はっきりとわかった。結果はどうなるかわからないが,最高に注目すべき舞台が目の前にあることを私は確信した。彼は、持っているものをすべて発揮できる状態にある。

そして、投手が投げる。しなやかに、スイングし打ち返した。打球が、ライト方向に低い軌道で飛んでゆく。一塁側のスタンドから見守る私たちには,打球のコースの正確な見極めができない。一瞬おいて、ボールがライトフェンスとポールの作る直角の内側に飛び込むのが見えた。ツーランホームラン。3対3の同点。チームも応援団も一気に息を吹き返した。そのまま延長に突入し,結局勝利した。

テレビでほかのチームの同じような場面を見ることがあるが、最後のバッターがいきり立って打席に向かうとたいてい結果は駄目である。

適度な緊張は大切だが,過ぎた緊張は力を発揮させる邪魔になる。過度な緊張の原因は、失敗した時への恐怖だと思う。

センター試験でも、失敗した時への恐怖は禁物である。入試に失敗しても,その年の受験には不利ではあるけれど、長い目で見ると実は、まだまだ大丈夫である。不本意な大学に入ることになっても、それをバネにして、第1志望校に順調に入った人を追い抜くその後の道をたどった人も多い。浪人しても、それが人生でかけがえのない貴重な経験になったという声もよく聞く。(「浪人はつらいから、せずにすむならしない方がいい」とも聞くが。)つまり、失敗しても大丈夫なのである。大丈夫だから、恐怖心を持つ必要はない。恐れることなく,コツコツと努力を積み,集中し、リラックスして本番に臨んでほしい。

3年生と補習科の諸君の健闘を祈る。

コモンホールの入り口に

信宮 優子

コモンホール入り口上部は、緩やかなカーブを描いたアーチ型になっています。眺めてみたことがありますか。

「モノ」のデザインには全て理由があるはずで、六角形の鉛筆に理由があるように、階段の手すりの太さにも、教壇の高さにも、理由があると思うのです。ではこの「コモンホールのアーチ」の理由は何なのでしょう。直線であってもいいはずなのに、なぜ曲線になっているのでしょうか。

強度が強まるなど、建築学上必要な曲線であるのかもしれません。物理の先生からすると至極当たり前のことなのかも。それでも私は、この校舎を手がけた建築家が生徒の気持ちをやわらげようとしたに違いない、と信じて見上げています。直線だらけの無機質な学校の中で、丸みのあるものを見るとちょっとほっとしませんか。その昔、とある人が、これからこの学校に通う生徒達のことを思い浮かべて、こころにゆとりがもてるようにデザインしてくれたのかなあ、とちょっとうれしくなるのです。そして本当にそう思ってデザインしてくれていたとしたら、その想いはこれから何十年も先の生徒にも届いていくということなのです。

世の中には、自分の知らないところで、自分の知らない人が、見知らぬ自分のために何かをしてくれていることがたくさんあるのだと思います。きっと気づけていないことばかりで自分は未熟者であるけれど、また、その人達は気づいて欲しいともお礼を言って欲しいとも微塵も思ってなどいないのだろうけれど、そういう風に「知らず知らず助けられている」ことだけは知っている自分でありたいと思うのです。

山岳部の指導で感じたこと

竹内 直志

部活動の指導を通じ、新たな体験や思いがけない発見をすることがある。大きさや形の異なる赤・青・黄・緑の色とりどりの突起物がびっしりと取り付けられている壁を見たことがあるだろうか。岡山市内では駅前高島屋隣セントラルビルでガラス越しに見ることができる。真庭市湯原には15mもの高さの人工壁がある。真庭市の人工壁は本格的なスポーツクライミング競技のためにつくられたものである。2020年の東京オリンピックでスポーツクライミング競技が正式種目として認定されたことで、カラフルな人工壁を登る人がにわかに増えているらしい。

50の手習いというか、この人工壁に登る機会があった。壁に取り付けられた突起物はホールドと呼ばれ様々なタイプのものがある。手でしっかりと握れるタイプ、指2本だけを何とか引っかけるタイプ、掴み所が無いため手のひら全体で包み込むタイプ、などなど。初心者は設置されたホールドを制限無く自由に使い一番上まで登る。触れるホールドを制限しない場合は比較的簡単に登れるが、上達してくると触れるホールドを限定する。ホールドが限定されると中々難しい。競技では指定されたホールド以外には触れることはできず、一定のトレーニングをしていないと一番上までは容易には登れない。ホールドが指定される場合は手足の運び方を間違えると前に進むことができなくなることが多い。

競技では競技直前に触れることができるホールドが提示され、選手個人個人がそのホールドを見てコースをイメージしながら手足の運び方を組み立てていく。公平を期すため、競技中は他の選手が登っているルートを見ることはできない。ルート上には様々な課題があり、手を伸ばすだけでは届かない場合、ホールドを掴むためジャンプが必要になる。壁の角度が90°を超えるようなルートでは重力に逆らって手足を動かすことが要求される。ジャンプという動作は壁から手足を離すため落下する恐怖心から躊躇する。手足の運びが上手くイメージできていない場合には先が見通せず身動きが取れずその場で体力を消耗する。オーバーハングの壁では重力に負けない絶対的な体力が必要である。ホールドを掴めず落下した時点で競技は終了となる。

競技ではスタートとゴールだけがはっきりしているが、点在するホールドから進むルートを自分なりに描き、動きを組み立てて登っていく。これって、人生そのもの。ホールドを人生のターニングポイントとすれば、ターニングポイントを掴まなければ次には進めない。それぞれのターニングポイントを掴むために必要な物事を、トレーニングによって準備しておく。指定されるホールドのように人生のターニングポイントも決して多くはない。限られたターニングポイントを逃さないように掴まなければならない。掴むためには常にトレーニングが必要である。スポーツクライミングの指導という初めての経験を通じ、人生のターニングポイントについてあらためて考えさせられた。

是非、一度スポーツクライミングに挑戦してみては?何か発見があるかも?

「いじめ問題・悩みに関する調査」結果の概要

山下 知子

教育相談課では、今年も全学年を対象に「いじめ問題・悩みに関する調査」を行いました。長年、継続的に実施しているもので、毎年この冬の号で結果報告をしています。学校の中で「いじめ問題」が起こっていないか、また日頃生徒がどのような思いや悩みを抱えているのか等を調査しています。その結果を経年比較することや共に考えることで、新たな気づきや行動変容も生まれてきます。調査結果は、落ち着いた高校生活が送れるように全ての教員で共通理解を図り、様々な問題に迅速に対応できるよう協議しています。

平成30年度調査日 3年生:5/24(木)LHR 1.2年生:9/20(木)LHR

☆全体的な傾向・各学年の特徴
例年と同じく各学年とも他項目と比べてややポイントが高くなっているのが「勉強の仕方」「将来の見通し」「他人からの評価」です。学年に関係なく多くの生徒が勉強面や将来についての悩みを抱えており、不安や焦りなどの気持ちも大きいようです。高校生は他者との関係の中で自意識が高まる時期なので、「他者からの評価」のポイントも高くなっています。
1年生は、体調を崩す生徒が比較的少なく(保健室利用も少ないです)、全体的に落ち着いて学校生活を過ごしている様子が、このアンケートからも伺えます。
2年生は、「言葉や態度で傷つけられることがある」と答えた生徒が1年時より増加している一方で、家族や友人に相談できる人が増え、「クラスに問題がある」「人が気になる」などの項目が減少するなど、時には辛いことも経験しつつも成長している様子が感じられます。
3年生は1年時より「体調をよく崩す」「学校へ行きたくない」生徒がやや多い傾向がみられますが、1・2年時と比べると「友人関係の悩み」「校内の信頼できる相談相手」「勉強の仕方」「クラスの中に改めるべき問題」の項目に関する不安や悩みが減少しています。家族や友人に悩みを相談できると答えた人も増えており、友人や家族に相談することで、勉強・進路・人間関係の不安が軽減されていると推察されます。

問A 【いじめ・悩みについての質問】の結果 (抜粋)

「問A」質問事項3年2年1年
a  生活のリズムが整わず,体調をよく崩す。2.01.91.8
b  友人関係で悩むことがよくある。1.71.71.6
c  学校内に信頼して相談できる人がいない。1.61.51.5
d  勉強の仕方がわからず,集中できない。2.12.22.2
e  将来への見通しが立たず,気力が湧かない。2.12.22.2
f  学校に行きたくないとよく思う。2.01.91.8
g  私には友人がいない。付き合いがうまくいかない。1.31.31.3
h  私はいじめられている。1.11.11.0
i  からかわれたり,手を出されることがあり,いやだ。1.31.21.1
j  言葉や態度で傷つけられることがある。1.31.41.3
k  クラスの中に改めるべき問題がある。1.31.61.6
l  いじめたりいじめられたりしている人がいる。1.21.31.2
m  人が私をどう思っているのかとても気になる。2.22.02.1
n 私のことをわかってくれる人は一人もいない。1.41.31.3
o 家族は私に過剰に期待をかける。1.61.61.6
p 家族には,悩みがあっても相談できない。1.61.61.6
 q 私の落ち着ける場所はない。1.31.31.3

1:あてはまらない 2:あまりあてはまらない 3:ややあてはまる 4:あてはまる 
の4件法で回答し,平均値を表す
*回答は、最高値4 最低値1・・・数値が小さい方が良い状態となります。

☆思春期の悩みについて
思春期~青年期では、心と身体の変化に自分自身とまどいながら、その不安定さの中で人間関係・勉強・進路のことなどたくさんの悩みを抱えやすいものです。特に人間関係が広がる高校時代には、仲間から嫌われていないか、友人といかに上手につきあうかということで、不安に思ったり悩むことがよくあります。しかし、悩み苦しむことはマイナスなことばかりでなく、精神的に成長するうえでとても大切な過程となります。自分で解決法を見いだしたり、自分の中で折り合いをつけたりしながら、人は少しずつ大人へと成長していくものです。他人との関係において自分をみつめ、自分らしく・・・自我の確立をしていくのが、この年代の特徴ともいえます。

☆いじめの実態について
いじめに関連した項目は、質問h~lまでになります。その数値は高くはないものの、毎年皆無ではありません。今年の調査からは早急に対応しなければならないものは確認できませんでしたが、教員の目の届きづらいところで傷つき体験をしている生徒はいるようです。

問B 【朝日高校に「いじめ」はありますか。あるとすればどのようなことですか】 について(自由記述)

「知っている限りではない」「あまりない」「目撃したことはない」「知らない」が多数の意見でしたが、少数ながら「人をからかったり、暴言を吐く、悪口を言ったりする人がいる」「学力の差によるいじめ、偏見」「集団による個人への無視」「あからさまに忌み嫌う態度を取ったりする」「SNS上で他人に知られないようにやっている」など記述もみられました。また、「思っている以上に同調意識が蔓延している。」「いじめはないと思うが、助けてくれる人が少ない気がする。」など気になる記述もありました。この調査では記名がある場合とない場合がありますが、調査回収後、気になる事例については、まずは担任・学年団、そして教育相談課が必ずフォローしています。

☆知ってほしいこと・訴えたいこと(自由記述)では、こんな声もありました!

・朝日には勉強以外のことをする時間があまりないのが良くない。ずる賢い人や怠惰な人、上手な人はいろんなことができるが、真面目な人は素直にやり過ぎて時間がない。勉強以外の経験も大量にしないと良い人材は生まれないので深刻な問題だと思う。(3年生)・・・3年生の実感のこもった一言です。本当にその通りだと思います。「よく学び、よく遊べ!」これですよね。朝日生には、勉強に対する熱いプレッシャーをかけられることが伝統的にありますが、このプレッシャーにただ従うだけでなく、自分にとって本当に必要なもの・大切なものが何かを見極めて、力強く生きる力を身につけてもらいたいと思います。

・他人の根拠のない噂をたてる。(2年生)・・・こうした行為は、軽い気持ちから行われることも多いですが、間違った話でも簡単に取り消すことはできません。人を傷つけるような話は極力避けたいものです。噂された人は、想像以上に傷つき辛い気持ちになること、自分の言葉が相手をとても傷つけることに気づかなければいけません。周囲の人が不愉快な気持ちになることもよくあります。お互いのことを思いやることができる人になりたいものです。

・SNS上で他人に知られないように嫌なことをする人がいる(1年生)・・・閉ざされた人間関係の中で行われるSNS上のコミュニケーションは、相手の表情が見えないため、相手の感情を推し測ることが出来ず、一方通行のコミュニケーションになりがちで、思わぬ誤解やトラブルを引き起こすことがあります。SNSはとても便利なものではありますが、目の前の相手の表情や態度を見ながら他者と向き合い、お互いの信頼関係を築き、双方向のコミュニケーションをとることを大切にしてもらいたいと思います。
す。

本校では「いじめ問題」等の実態を把握した際には、学年団をはじめ教育相談課・各関係者等で対策を協議し、毅然とした態度でその解決に努めています。何か気になることや心配事などがある時には、遠慮なく教育相談課や保健室に相談に来てください。あなたは決してひとりではありませんよ(^.^)/